蛍光偏光解消法による高分子鎖の局所運動の研究

蛍光偏光解消法による高分子鎖の局所運動の研究

アントラセンに代表される蛍光分子には、遷移モーメント M が存在し、その方向と一致した偏光のみを選択的に吸収して励起状態となる。そして励起状態からの失活に伴う蛍光もまた M の方向と一致した偏光となる。すなわち、直線偏光で分子を励起し、その蛍光の偏光度を調べることで、蛍光分子の配向を知ることができる。ここで、超短パルス光で励起を行い、蛍光を時間分解測定すれば、分子配向の時間変化すなわち分子の運動性を観察することができる。模式図をこちらに示す(GIFアニメーション、240kB x2) 。偏光解消を通して観測される分子運動は、蛍光寿命と同程度、つまり 数100ピコ秒から数10ナノ秒の時間領域の運動である。観測される蛍光の異方性比 r(t) は M の配向自己相関関数と等価であるため、時間分解蛍光偏光解消では、分子の回転運動を直接観測することができる。また、蛍光ラベルの導入位置を変えることで、鎖の中央や末端、側鎖など、高分子鎖中の特定の位置のみの運動を選択的に評価することができるのも大きな特徴の一つである。

当研究室では、これまでに蛍光偏光解消法を用いて、次のような研究を行ってきた。

・希薄溶液中の孤立高分子鎖の分子運動性(側鎖置換基や立体規則性の効果、溶媒依存性など)

・高分子ステレオコンプレックスのダイナミクス

・ゲル網目鎖の分子運動

・固体基板上のグラフト高分子鎖の分子運動

また実験的手法だけでなく、分子動力学シミュレーションを導入し、実験結果の比較による鎖の運動モードの解析を試みている。

最近の研究成果

1. J. Horinaka, H. Aoki, S. Ito, M. Yamamoto, Polym. J., 31 , 172 (1999).

2. J. Horinaka, S. Ito, M. Yamamoto, T. Matsuda, Comp. Theor. Polym. Sci., 10, 365 (2000).

3. H. Aoki, J. Horinaka, S. Ito, M. Yamamoto, H. Katayama, M. Kamigaito, M. Sawamoto, Polym. J., 33, 464 (2001).

4. H. Aoki, M. Kitamura, S. Ito, Macromolecules, 41, 285-287 (2008).

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