種々の光学的手法による高分子超薄膜の構造評価

種々の光学的手法による高分子超薄膜の構造評価

当研究室では、種々の光学的手段を用いて高分子、とくに高分子超薄膜の構造解析を行っている。光計測の特長としては、1) 極めて高感度であり、超薄膜からの微弱な信号も検出可能、2) 高速測光によりピコ秒域からの超高速の現象から秒に至るまでの広い観測時間領域、3) 非接触・非破壊、4) 分子スケールのわずかな構造変化に敏感、という点である。以下にこれまでに行ってきた代表的な研究例を示す。

1. 蛍光プローブ法

基本的な光物理プロセスの素過程は、ナノメートルの空間スケールでの周辺の構造に強く影響される。そのため、観測したい高分子の一部を蛍光色素で標識し(蛍光プローブ)、その蛍光スペクトル・蛍光寿命などの変化から高分子のナノ構造を評価することができる。この蛍光プローブ法でよく利用されるのが、エネルギー移動現象である。励起エネルギーレベルの異なる二種の蛍光分子が数ナノメートルの距離まで接近すると、高いエネルギーレベルを持つ分子(ドナー)から低レベルの分子(アクセプター)へ励起エネルギーが移動し、アクセプターが発光するようになる。そのため、ドナー選択励起下でのアクセプターの蛍光成分は、分子間の距離を測るナノメートルオーダーの「ものさし」となる。

図は高分子LB膜の熱による構造緩和を観測した例である。左図は測定に用いた試料の膜構造であり、それぞれフェナントレン(ドナー)、アントラセン(アクセプター)で標識された高分子単分子膜が、標識されていない膜4層分はさんで離れた構造をしている。はじめ、フェナントレン(ドナー)層とアントラセン(アクセプター)層はおよそ 4 nm 離れているため、エネルギー移動効率が低く、ドナーの蛍光が大きく観測されている(青)。これを60℃で7時間加熱すると、アクセプター蛍光が増大した(赤)。高分子のTg以上に加熱することにより、構造緩和が起こり、それぞれの層が拡散することで両層が相互進入しあい、エネルギー移動効率が上昇したためである。このように蛍光分光法がナノメートルオーダーの構造を高感度に測定できる有力な手段であることが分かる。

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2. 表面プラズモン分光法

プリズム表面に蒸着した金属薄膜に光を入射し、その入射角を掃引する。ある特定の角度で金属の表面プラズモンのもつ固有の波数ベクトルとプリズムからの入射光の接線方向の運動量が一致し、表面プラズモンが励起される。このとき入射光のエネルギーは金属薄膜に吸収され、反射光強度が著しく減少する。ここで、金属膜表面に高分子のような誘電体が吸着すると、吸収の起こる角が広角側にシフトする(右図)。この共鳴角のシフト量から金属膜上に吸着した高分子薄膜の膜厚を知ることができる。この手法の特筆すべき点は、その感度であり、1 nm 程度の超薄膜であっても精度の高い測定が可能である。当研究室では、2種の高分子間にはたらく静電相互作用や電荷移動相互作用を利用した交互吸着法により、高分子の多層構造の作製を行っているが、迅速かつ高精度にナノメートルオーダーの評価を行うことのできる本手法は、その構造解析に大きな力を発揮する。

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3. ブリュースター角顕微鏡

水面にある角度でp-偏光を入射すると、反射光の強度がゼロになる。この角度はブリュースター角と呼ばれ、空気-水の場合では 53.1度である。レーザー光をp-偏光としてブリュースター角で入射すると、反射光強度は0であるが、水面上が高分子の膜で覆われていると、ブリュースター条件が崩れ、レーザー光は反射される。したがって、水面は暗く、膜の存在する領域は明るく画像化される。この手法の特徴は、厚さ 1 nm 以下という高分子超薄膜でも、水面上での膜の構造を直接観察できる点である。

図に示すのは、ポリイソブチルメタクリレート/ポリオクタデシルメタクリレート混合単分子膜の水面上での相分離構造をブリュースター角顕微鏡(BAM)で観察した画像である。分子一つ分の厚みしか持たない超薄膜でありながら、その構造を明瞭に観察可能であることが分かる。当研究室では、このBAMを利用して、高分子単分子膜の水面上での基礎物性の解明を行い、水面という二次元平面に束縛された高分子鎖が、バルク状態とは異なった物性を示すことを明らかにしている。

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最近の研究成果

1. M. Mabuchi, K. Kawano, S. Ito, M. Yamamoto, M. Takahashi, & T. Masuda, Macromoleculs, 31, 6083 (1998).

2. M. Mabuchi, S. Ito, M. Yamamoto, T. Miyamoto, A. Schmidt, & W. Knoll, Macromoleculs, 31, 8802 (1998).

3. Y. Shimazaki, M. Mitsuishi, S. Ito, & M. Yamamoto, Langmuir, 14, 2768 (1998).

4. N. Sato, S. Ito, & M. Yamamoto, Macromolecules, 31, 2673 (1998).

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