有機薄膜太陽電池

有機薄膜太陽電池

21世紀の人類が直面する課題は、「エネルギー」、「環境」、「資源」であると言われています。したがって太陽電池の研究は、学術的にも産業的にも魅力ある研究テーマです。共役高分子やフラーレン(C60) などの有機材料を用いた有機薄膜太陽電池は、シリコン太陽電池とは異なる原理で光―電気エネルギーの変換を行い、多くの優れた特長をもつことから、現在、盛んに研究されています。高い変換効率を達成するためには、薄膜が光を吸収して発生する励起子や電荷などの過渡種が行う基本プロセスを分子の時間スケールで理解するとともに、これらの基本プロセスを制御するため分子の空間スケールでの精密な薄膜構造を設計・構築することが必要不可欠です。そこで当研究室では、「極短パルスレーザー」を用いた過渡分光法を駆使して、過渡種の生成から消滅までを広い時間スケールで観察し、光電変換に至る機構を分子の時間スケールで解明しています。さらに、「高分子超薄膜」の作製技術を用いることで、薄膜構造を分子の空間スケールでデザインし、これら基本プロセスの制御を試みています。このように、分子の時間・空間スケールからのアプローチにより、有機薄膜太陽電池の構造と機構を理解し、より優れた性能をもつ新しい薄膜太陽電池を開発する研究を行っています。

[有機薄膜太陽電池における電子・励起子ダイナミクスの解明]

高分子系有機薄膜太陽電池には、共役高分子・フラーレン誘導体あるいは共役高分子・共役高分子のブレンドや共役高分子・金属酸化物半導体のハイブリッドなど様々なヘテロ接合様式があり、現在盛んに研究されています。われわれは、過渡吸収分光法を用いることで、様々なヘテロ接合薄膜内に生成した励起子や電荷などの過渡活性種を検出し、それらの生成・再結合消滅、拡散・輸送過程をフェムト秒からミリ秒にわたる時間域で観測します。これにより、有機薄膜太陽電池で起こる光電変換のメカニズムとダイナミクスを明らかにしようと試みています。また、過渡吸収分光法を用いると、過渡種の生成・消滅ダイナミクスだけではなく、「何が生成したのか」を明らかにすることも可能になります。我々は最近になり、共役高分子(MDMO-PPV)とフラーレン誘導体(PCBM)とのブレンド系において、PCBM組成が高い場合にはPCBMカチオンが生成していることを発見しました。この結果は、これまで電子アクセプターとして機能し、電子輸送材料として働くと考えられてきたフラーレンが正孔輸送材料としても機能しうることを実証するものであり、現在その生成機構の詳細を検討しています。最近の研究成果1. S. Yamamoto, J. Guo, H. Ohkita, S. Ito, Adv. Funct. Mater., 18, 2555-2562 (2008).2. T. A. Ford, H. Ohkita, S. Cook, J. R. Durrant, N. C. Greenham, Chem. Phys. Lett., 454, 237-241 (2008).3. H. Ohkita, S. Cook, Y. Astuti, W. Duffy, S. Tierney, W. Zhang, M. Heeney, I. McCulloch, J. Nelson, D. D. C. Bradley, J. R. Durrant, J. Am. Chem. Soc., 130, 3030-3042 (2008).

4. S. Cook, H. Ohkita, Y. Kim, J. J. Benson-Smith, D. D. C. Bradley, J. R. Durrant, Chem. Phys. Lett., 445, 276-280 (2007).

5. H. Ohkita, S. Cook, Y. Astuti, W. Duffy, M. Heeney, S. Tierney, I. McCulloch, D. D. C. Bradley, J. R. Durrant, Chem. Commun., 3939-3941 (2006).

6. S. Cook, H. Ohkita, J. R. Durrant, Y. Kim, J. J. Benson-Smith, J. Nelson, D. D. C. Bradley, Appl. Phys. Lett., 89, 101128/1-101128/3 (2006).

7. H. Ohkita, S. Cook, T. A. Ford, N. C. Greenham, J. R. Durrant, J. Photochem. Photobiol. A, 182, 225-230 (2006).

[超薄膜積層技術による高効率光電変換素子の設計]

光電変換を効率良く行うためには、分子の空間スケールでデバイスの構造を制御し、励起子や電荷の生成とそれらの拡散・輸送過程を最適化することが必要となります。これまでに、超薄膜作製法として交互吸着法を用い、高分子多層積層型の有機薄膜太陽電池の研究を行ってきました。スピンコートと交互吸着法を組み合わせることにより、正孔輸送層、光捕集層、電子輸送層の三層からなる有機薄膜太陽電池を作製し、高効率の電荷分離・電荷輸送を実現するために必要となる層構造と界面の働きを明らかにしました。 最近の研究成果1. M. Ogawa, M. Tamanoi, H. Ohkita, H. Benten, S. Ito, Sol. Energy Mater. Sol. Cells, DOI:10.1016/j.solmat.2008.11.050.2. K. Masuda, M. Ogawa, H. Ohkita, H. Benten, S. Ito, Sol. Energy Mater. Sol. Cells, DOI:10.1016/j.solmat.2008.09.028.3. H. Benten, N. Kudo, H. Ohkita, S. Ito, Thin Solid Films, in press.4. H. Benten, M. Ogawa, H. Ohkita, Shinzaburo Ito, Adv. Funct. Mater., 18, 1563-1572 (2008).5. M. Ogawa, N. Kudo, H. Ohkita, S. Ito, H. Benten, Appl Phys Lett, 90, 223107/1-223107/3 (2007).[有機-無機複合型太陽電池の開発]

酸化チタンなど金属酸化物半導体の優れた電子輸送能とその化学的安定性に着目し、共役高分子と金属酸化物半導体とからなる有機-無機複合型太陽電池の研究開発を行っています。金属酸化物半導体表面をC60や色素分子で化学修飾することにより、有機-無機接合界面における電荷分離効率が向上します。このように有機-無機界面での電子移動と電荷分離のメカニズムを調べ、新しい光電変換デバイスを設計しています。最近の研究成果1. N. Kudo, S. Honda, Y. Shimazaki, H. Ohkita, S. Ito, H. Benten, Appl. Phys. Lett., 90, 183513/1-183513/3 (2007).

2. N. Kudo, Y. Shimazaki, H. Ohkita, M. Ohoka, S. Ito, Sol. Energy Mater. Sol. Cells, 91, 1243-1247 (2007).

3. H. Ohkita, Y. Shimazaki, M. Ohoka, S. Ito, Chem. Lett., 33, 1598 (2004).

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