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 走査型近接場光学顕微鏡の開発と高分子ナノ構造解析への応用


古典光学に基づく光学顕微鏡の空間分解能は、光の波長の1/2程度までに制限されている(回折限界)。つまり従来の顕微鏡では300 nm以下の分解能は得られないことになる。この回折限界を超えるべく開発されたのが走査型近接場光学顕微鏡(SNOM、しばしばNSOMとも呼ばれる)である。 SNOMは先端を尖鋭化した光ファイバーをプローブとして用いる走査プローブ顕微鏡の一種である。プローブの先端には直径にして100 nm以下のピンホールが設けられている。波長以下の開口からの光は近接場光と呼ばれ、遠方へは伝播せず開口近傍にのみ存在している。このプローブを試料に接近させることで、波長以下の微小な領域のみを照明し、試料からの散乱光や蛍光を検出する。これを逐次位置を変えながら行うことで、高分解能で顕微鏡画像を得ることができる。

1. SNOMよる単一分子・単一高分子鎖分光

SNOMでは分子一個からの蛍光をも高感度かつ高分解能に検出することが可能である。右図はローダミン6Gの単一分子から得られた蛍光像である(スケールバーは100nm)。左側の画像で観測されている分子の大きさから約20 nmの空間分解能で単一の分子を観察可能であることが分かる。また、右側は1個の分子からの蛍光であるが、2つの蛍光ピークが観測されている。これは開口近傍の電場分布を反映したものであり、基板垂直方向の遷移モーメントを持つ分子がこのように観察される。この分子は、プローブのスキャン中矢印のラインから蛍光強度が0まで減少している。これは強い励起によって蛍光分子が褪色した結果であるが、この褪色反応がdiscreteに起こっていることから、この蛍光が多数の蛍光色素分子からのものではなく、単一の分子から観測されたものであることが分かる。

このように高分解能・高感度のSNOMを用いることで、高分子鎖一本一本の形態を観察することが可能となる。

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2. 高分子単分子膜の相分離構造の解析

側鎖に両親媒性官能基を持つ高分子化合物は、気水界面で分子一層のみの厚さを持つ単分子膜を形成することが知られている。このような2次元平面に束縛された高分子の相分離構造をSNOMによって評価した。図に示すエネルギー移動蛍光(FRET) SNOM像では、ポリイソブチルメタクリレート/ポリオクタデシルメタクリレート混合単分子膜の相分離界面のみが明瞭に観察された(図中右上のスケールバーは 2 μmを示す)。この2次元高分子の相分離界面は200-300 nmと3次元バルクと比較して著しく大きな界面幅を有することが見出された。

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3. 高分子ゲルの内部構造観察

高分子鎖が3次元的な網目構造を形成したゲルの内部には、粗密が存在し、不均一であることが知られている。この不均一構造を、SNOMを用いて直接的に実空間観察を行った。図(a)に示すのは、ポリメチルメタクリレートゲルのSNOM像である。このように、ゲル内部には数100 nmオーダーに不均一ドメインが形成されていることが分かる。図(a)中で示した矢印A, Bにおける蛍光減衰曲線が図(b)であり、この2点での減衰曲線はほとんど同じであることが分かった。さらにその減衰速度から見積もられる網目鎖密度は全体平均よりも遙かに高い濃度であることが分かった。蛍光減衰曲線は、数nm程度の空間スケールでの鎖密度を反映していることに注目すると、このことは、高分子鎖が10 nmオーダーのミクロクラスターを形成し、これが不均一に空間分布することで数100 nmにわたるドメインを構成した階層構造をとっていることを示唆している(詳細は文献1を参照)。

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4. 近接場光による高分子媒体への高分解能情報記録

ナノメートル領域にまで絞り込んだ近接場光を、色素分子を導入した高分子薄膜に照射することで、高分解能の情報記録を行った。書き込まれたスポットのサイズは100-170 nmであり、光の回折限界を超えた光記録を実現することができた。

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5. 新規近接場分光法の開発

高分子の構造解析にSNOMを利用するだけでなく、新しい近接場分光システムの開発・試作も重要な研究テーマの一つである。これまでに深紫外光を利用したSNOMを開発し、従来の顕微鏡観察において不可欠であった染色処理を行うことなく、有機材料・生体試料の直接観察を可能とした。

最近の研究成果
1. H. Aoki, S. Ito, J. Phys. Chem. B, 105, 4558 (2001).
2. H. Aoki, Y. Kunai, S. Ito, H. Yamada, K. Matsushige, Appl. Surf. Sci., 188, 534 (2002).
3. H. Aoki, S. Ito, Thin Solid Films, 449, 226-230 (2004).
4. J. Yang, R. Sekine, H. Aoki, S. Ito, Macromolecules, 40, 7573-7580 (2007).
5. T. Ube, H. Aoki, S. Ito, J. Horinaka, T. Takigawa, Polymer, 48, 6221-6225 (2007).

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