高分子系の光物理・光化学過程の解明


[高分子固体中の光誘起電子移動]

電子移動を支配する二つの因子
一般に電子移動速度kETは、次式に示すように、電子的な相互作用を表す|V|2とフランク・コンドン因子(FC)の積で表される。
前者は、電子の波動関数の重なりに依存し、二分子間の距離に対して指数関数的に減少する。後者は、二分子のエネルギーが一致する確率を表し、古典的条件下ではアレニウス型の温度依存を示す。要するに、電子を渡すドナー(D)と電子を受け取るアクセプター(A)の距離がある程度近づいて、両者のエネルギーが一致したときに初めて電子はDからAへ移動できるのである。このように、二分子間での電子移動では、電子ドナーと電子アクセプターが主役である。しかし、ほとんどの場合DとAのエネルギー準位は一致していないので、この二人だけでは電子はそう簡単には移動できない。電子移動では、両者のエネルギーを一致させる脇役が重要な役割を果たしている。この脇役が、主役のDとAを取り巻く媒体である。極性溶液系を例に取ると、DおよびAを取り巻く極性分子の配向状態に応じて、DおよびAのエネルギー準位は常にゆらいでいる。このゆらぎにより系のエネルギー一致が達成され、電子は移動することができる。

エネルギーの一致を導く熱ゆらぎ

右図に媒体分子の配向ゆらぎとD-A分子系の電子エネルギー準位の変化を示す。右側は系の始状態および終状態の反応ポテンシャルを、左側はD-A分子系のクーロンポテンシャルを表す。電子移動する前は、電子はD分子上に存在し(赤丸)、始状態ポテンシャル上を動く。右図上は始状態の最安定状態を表したもので、媒体分子の配向ゆらぎにより系のエネルギーがゆらぐ(灰色実線)。






エネルギーゆらぎにより、始状態ポテンシャルと終状態ポテンシャルとの交点まで達すると、D-A分子系の電子エネルギー準位が一致する。電子移動は、この瞬間にのみ起こる。これは、電子の運動が周りの媒体分子などの核運動に比べて極めて速く、電子移動の瞬間にはエネルギー差を補償する分子運動が存在しないので、交点以外では電子移動の前後でエネルギー保存則が成立できないからである。
 
 
 
 
 
 
 
電子移動後は終状態ポテンシャル上へ移り、熱ゆらぎに
より熱平衡状態となる。下図は、終状態の最安定状態を表している。

高分子固体中における光誘起電子移動

上で述べたように、溶液系では極性溶媒の配向ゆらぎが系のエネルギー一致を導く主な要因である。しかし、高分子固体系では、ガラス転移温度Tg以下では主鎖の運動は凍結し、溶液系に比べて配向ゆらぎは大きく制限されている。われわれは、このような違いに着目して、高分子固体系における光誘起電子移動に関する研究を行っている。その結果、電子移動にはガラス転移のみならず側鎖融解や側鎖緩和などにより極性基の運動が十分に解放される場合には、これらの緩和現象により電子移動反応が支配されることを見出している。

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最近の研究成果
1. H. Benten, H. Ohkita, S. Ito, M. Yamamoto, Y. Tohda, K. Tani, J. Chem. Phys., 123, 084901 (2005).
2. H. Benten, H. Ohkita, S. Ito, M. Yamamoto, Y. Tohda, K. Tani, J. Phys. Chem. B, 108, 16457 (2004).
3. H. Ohkita, H. Benten, A. Anada, H. Noguchi, N. Kido, S. Ito, M. Yamamoto, Phys. Chem. Chem. Phys., 6, 3977 (2004).
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